フロントマンの個性を「活かすバンド」と「殺すバンド」 サニーデイ・サービスとThe Smithsの共通点
ロックバンドの花形といえるボーカルは「フロントマン」とも呼ばれます。フロントマンの個性がバンドの方向性を決定づけ、フロントマンの魅力がそのままバンド自体の威力に直結するといっても過言ではありません。
バンド音楽の面白さは「花形」ばかりに限りません。魅力的なボーカリストを支える楽器隊が、バンドを「活かし」もすれば、「殺し」もするんです。
今回は。90年代から現在まで活躍するロックバンド、サニーデイ・サービスと、80年代にイギリスはマンチェスターで一世を風靡して今でも根強い人気を誇る、The Smiths、二組のロックバンドを通じて、フロントマンとバンドサウンドの関係性を紐解いてきたいと思います!
サニーデイ・サービスとは?
サニーデイを知らない、もしくは最近のサニーデイしか知らないという若い方々に向けて簡単に説明しましょう。
サニーデイ・サービスとは、曽我部恵一(ボーカルギター)、田中貴(ベース)、丸山晴茂(ドラムス)で結成され、90年代に活躍した3ピースバンドです。
※残念ながら、丸山晴茂さんは2018年に他界しました。
60~70年代の邦楽フォークや、黎明期の邦楽ロックの「文学部生的佇まい」を90年代にアップデートしたロックバンドです。
シンガーソングライター曽我部恵一の作る儚さ溢れるメロディーと、「踊れないボビー・ギレスビー」風のボーカルに注目がいきがちですが、実は「ロックバンド」としてのサニーデイの看板は、ベース&ドラムスのリズム隊にあったのでは、と個人的に解釈しています。
曽我部恵一だけでは・・・
もし「曽我部恵一と彼のバックバンド」であったなら、あの名盤「東京(1996)」も、ナヨっとした、いなたいロン毛の兄ちゃんのストーカーソングブック第2集という感じになっていて、正直聴けたもんじゃないと思います。
散々こき下ろしているようですが、私自身、曽我部恵一の世界観は大好きです。
ただ、彼だけではクセが強すぎて一般受けしないということなのです。(ちなみにウチの奥さんは「ムリ」合わないみたいです・・・)
そんな曽我部のストーカーソング楽曲に説得力を持たせている(?)のが、ベース田中貴とドラムス丸山晴茂というプレイヤーの存在なのです。
イントロに注目。
異様にクサいストリングスの導入がフェードアウトしたと思ったら、今度は異様に古臭いエコーのかかったアコギのアルペジオがはじまります。
完全に曽我部恵一の世界観。
しかし胸やけ寸前に、野太いベース&ドラムスがバタバタと駆け込んできます。
すると、魔法にかかったように、アコギもストリングスも、曽我部のファルセットボイスも活きてくるのです。
WOW!これぞサニーデイ・サービス!!(解説放棄)
ザ・スミスとサニーデイ・サービスの共通点
そんな「不思議なバンド」サニーデイ・サービスですが、ある共通点を持ったグループがイギリスにいます。
イギリスはマンチェスター出身、80年代に一世を風靡したザ・スミスというバンドです。
シンセやドラムマシンなど、エレクトロニクスを多用したグループ流行の中、ザ・スミスは、ベース・ドラムス・エレキギター(アコースティックギター)のシンプルな編成で、かつ新鮮味のあるバンドサウンドを紡ぎだしました。
さて、そんなザ・スミスとサニーデイ・サービス、何が似ているのでしょうか?
それは、ボーカルのクセの強さと、楽器隊の関係性です。
ザ・スミスには、モリッシーという風変りなシンガーがいました。
彼は、2m近くの長身で、眉毛が濃くて、ベジタリアンでホモセクシュアルでマザコンという強烈な個性の持ち主でした。
その上、くねくねした踊りをしながらヨーデルみたいなヘンな歌を歌います。
百聞は一見に如かず。一度映像を見てみましょう。
ヘンな歌い方やくねくねダンスはさておき、目を奪われるのは、ジーンズのベルトに括りつけた花束!
こんなでも、徐々にカッコよくみえてくるのが不思議。
いかがでしょうか?
こんな強烈なボーカリストを抱えていると、バンドの演奏は尻込みして引っ込んでしまいそうですが、このスミスというバンドには、あと2人の個性的なプレイヤーがいました。
それは、ジョニー・マーというギタリストと、アンディ・ルークというベーシストです。
マーのギターは流麗で繊細なサウンドを奏でます。エレキギター特有のガッツのあるプレイとは無縁で、流麗かつ繊細、カラフルで表情豊かなプレイが特徴的です
アンディのベースは、低音楽器ながら、歌うようにメロディアスなフレーズを弾きます。意外とファンキーなスタイルを持っていて、彼の存在が、バンドサウンドを若干「ダンス」に寄せています。
フロントマンVS楽器隊という構図
主にバンドの花形となる人物をフロントマンといいますが、バンドはフロントマンの個性と常に闘わなければなりません。
異なる個性をぶつけあって、かつ調和も失ってはいけません。これがバンドアンサンブルの極意です。
その試行錯誤の結果として、バンドそのものに「このフロントマンはこのバンドでなければ成り立たない!」と言えるほどの説得力が生まれるのです。
いかがでしたでしょうか?
抽象的な表現で申し訳ありませんが、このバンド特有の化学反応が、サニーデイとザ・スミスには共通して生じているのです。
化学反応とはいいながらも、どんなバンドの試行錯誤の中で徐々に培われ、手にしたモノだと思います。よくフロントマンがソロデビュー(楽器隊は総入れ替え)したとき、「なんかイマイチ…」と思えてしまうことが、ありますよね?笑
それはやはり長年培われたバンドとの「一体感」 が不足しているからだと思うのです。
各メンバーの個性や欠点を補い合って、生まれるアンサンブルが、ロックバンドの最大の魅力なのです!ではまた!