邦ロック、「ガラパゴス」だっていいじゃない!
遅ればせながら、先月リリースされた水曜日のカンパネラの新EP「ガラパゴス」をヘビロテしています。
数々のフックを詰め込んだ複雑怪奇さと、夏の暑い日でもスルスルと聴ける軽快さを兼ね備えたトラックメイキングにシビれます。
まさに「四川風冷麺」のごとし。(以下飯テロ注意)
ケンモチヒロフミ氏のトラックは、リリースごとに、どんどんスキルとセンスが研ぎ澄まされている気がします。
ヒップホップ~ジャズ~南米音楽~EDMとワールドワイドに闊歩する無国籍サウンドは、「ガラパゴス」どころか、ONE OK ROCKやSuchmosに比肩して、世界で通用するポップミュージックではないでしょうか。
なんと、フランスやポーランドのフェスにも出演を果たしているみたいです。
飛ぶ鳥を落とす勢いですね。
そんな「洋楽ライク」な水曜日のカンパネラに対して、「ガラパゴス」な邦楽っていうのが存在します。
「アジカン大好きKANA-BOON」なんかがその代表でしょうか。
今回は、洋楽よりも、日本の音楽に影響を受けて、独自の魅力を見出していった「ガラパゴス」なアーティストを通じて、「邦楽ロックの素晴らしさ」を再確認したいと思います。
①KEYTALK
4つ打ち邦ロックの真打ち4人組。
J-POPマナーに忠実な展開と、表拍のお祭りリズムと、女子に媚びることを、一切の躊躇なく実行できる、スーパーいけすかないバンド。
メンバーの演奏技術もさるところ、音大出身者がおり、かつ全員作曲できるという、実はかなりのプロフェッショナル集団。
大学生っぽい軽薄さのその裏、実に巧妙な計算が施されています。
KEYTALK/「MONSTER DANCE」MUSIC VIDEO
就活中、「こいつノリで生きてんな」と決めつけてたチャラ男が、実はガッツリ企業研究してて、ちゃっかり財閥系商社に内定したと知った、あの日の記憶が蘇ります…うう…
②クリープハイプ
「オレ洋楽とかあんまし聴かないんだよね」派の筆頭、尾崎世界観率いるクリープハイプ。
売れないバンドマンの日常を切り取った風の歌詞はかなり屈折していますが、それも含め、「抑揚の強い歌メロ」「吐き出すように歌うサビ」「ハイトーンボイス」は、ベタベタの「邦楽ロック」マナー。
下積み期間が長かっただけあって、演奏技術や楽曲構成の巧みさは、学生あがり系バンドの追随を許しません。
この曲のカッティングの効いたギタープレイが大好きなんですが、他の曲ではあんまりみられません。
ドロドロとした人間感情を情感いっぱいに歌うボーカル尾崎。「世界観がスゴイ」と言いたくなる気持ちがわかります。
③ゆらゆら帝国
ヴェルヴェッツ、T-REX、ガレージロック、アメリカンハードサイケ…
古き良き60年代洋楽ロックの影響下にはありますが、水木しげる由来の湿度の高い歌詞世界と、日本人に染み込んだ表拍のリズムは頑なに手放しません。
「墓場で盆踊り(表拍)」にはなっても、決して「ファンキー(裏拍)」にならないのが彼らの持ち味です。
この曲はゆら帝の中でも特殊な部類ですが、彼らの特徴が顕著に表れていると思います。
乾いたギターサウンド、マンガチックな世界観、そして反復によるサイケデリック感覚。
2:41~からスローになるところは、ついつい「むこう側」に足を踏み入れてしまいそうになります…
邦楽ロックの素晴らしさに(今更)気づいた
少し自分語りをします。
私nuskは、大学入学ぐらいまでは邦楽ロックばかり聴いていましたが、大学時代に洋楽ロックに目覚めました。
その後、ファンクにジャズにHIP HOPと、徐々にポップミュージックの底なし沼にハマっていきました。
そして、一時期(丸5年くらい)は日本の音楽をほとんど聴かない時期がありました。
本場のイギリスやアメリカで評価されてる音楽に比べて、邦楽は明らかに劣ってる、という認識でした。
ええ、絵に描いたように清々しい「洋楽ロック中2病」です。
正直に言うと、今もその気配は抜けてません。(「封印した左手」が時々うずきます)
しかし、ひとつ最近になって気づいたことがあります。
それは「邦楽ロックって素晴らしい!」ということです。
邦楽<洋楽?
邦楽ロックは、構造的にはJ-POPです。
邦楽ロック=ロック風J-POPと言ってしまってもいいかもれません。
J-POPにはいくつもの制約(約束事)があります。
- サビで一番盛り上がらなくてはいけない
- 歌や歌詞をメインに聴かせなければいけない
- ゆえに「歌のメロディー」が最重要
など。
それらの「ガラパゴス」な制約が、邦楽が、洋楽に劣っている部分とはよく言われます。
そして、それらの約束事を守ることで喜ぶのは、歌謡曲や盆踊り、農耕のリズム感覚がDNAに刻み込まれた我々日本人だけです。たぶん。
これが、邦楽ロックはしょせん「ガラパゴス」文化であり、海外では通用しないと言われる所以です。
「ガラパゴス」でもいいんじゃね?
邦楽ロックは、日本人だけが喜ぶ、キャッチーな曲ばかり。だからクソ。
当時は本気でそう思ってましたが、上に挙げたようなバンドに出会い、邦楽ロックに「再入門」したことがキッカケで、考えがガラッと変わりました。
クリープハイプやKANA-BOONが、臆面もなく「バンプ聴いてバンドはじめました」とか「アジカン先輩サイコー!」とか言えるのが、カッコいいし、彼らの作る音楽も素直にカッコいいと思えるようになったのです。
邦楽ロックは伝統芸能
あらゆる制約を律義に守りながら、そういう「型」の中での差異や変化を楽しむ。
これは「能」や「落語」など日本の伝統芸能に通じるものです。
ある種の「伝統芸能」としての邦楽ロックの独自性に気づき始め、
日本語や日本人の感覚を持ち、かつ「音楽が大好き」である私が、邦楽ロックを聴かずにどうする!と思い至ったのです。
以上は、私のいちリスナーとしての、お粗末な経験ですが、第一線のアーティストとして、「邦楽ロック回帰」を果たしたバンドがいます。
ご存知「Galileo Galilei(ガリレオ・ガリレイ)」です。
北海道出身のフレッシュな高校生バンドだった彼らは、リリースを経るごとに海外のインディーロックの要素を吸収し、作品として昇華していきました。
その終着点が、POP ETCのクリス・チュウをプロデューサーに迎えた「ALARMS」というアルバムでした。(名盤!)
しかしその後、デビュー曲である「ハローグッバイ」を再録したりして、「原点回帰」を匂わせはじめました。
古今東西多くのポップミュージックを吸収した後に、自らのルーツである邦楽ロックに、改めて真正面から向き合い始めたのです。
そうして、邦楽ロック最強アンセム「恋の寿命」が生まれました。
J-POPマナーを忠実に守りながらも、彼らの創造性を羽ばたかせた名曲。
ストレートなラブソングでありながら、随所に職人的な「フック」が施されています。
イントロの眩いギターリフ、煽るようなバスドラが生み出すサビ入りの高揚感に、我々日本人は「パワー」を感じざるを得ません。
そしてこの快感こそが「邦楽ロック」独自の素晴らしさなのです。ガラパゴス万歳!
さいごに
いま邦楽ロックシーンは、R&Bやファンク、HIP HOPなど、ブラックミュージックの要素を盛り込んだ洋楽ライクなものが増えています。
そういったものの中にもカッコいいものは沢山ありますし、そういう「洋楽ライク」どころを、洋楽を聴きはじめるキッカケにしてほしい!というのが、このブログの主旨です。
しかし、「コイツらベタベタやな~」と吉本新喜劇を観るような気持ちで、「ガラパゴス」な邦楽ロックを愛でるのもオツなものではないでしょうか?
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