「ロック」と「フォーク」の違いを検証してみた。
今回はフォークミュージックと対比して、「ロックの聴き方」を学んでいきます。
正しい「ロック」の聴き方
ボブ・ディランの熱狂的ファンであったはずの人々は、「ロック」に転向したディランを受け入れられませんでした。
その理由は、彼らが「ロック」の「良さがわからなかった」=「聴き方がわからなかった」からでした。
今回は、フォークリスナーがなぜ「ロック」の良さがわからなかったのかを探ります。
「フォーク」と「ロック」という2大ジャンルを対比して、正しい「ロック」の聴き方というものを浮き彫りにしていきます。
「正しいロック」なんて言葉は矛盾してる!
ロックとは自由な音楽だ!
「正しい」なんて表現は、ロックに必要ねえ!ファ●ク!!
「正しいロック」という言葉は、確かに「ジャイアントコーンミニ」とか「白いブラックサンダー」みたいな、矛盾したものを感じますよね汗
「精神性としてのロック」はひとまず置いといて、今回は「音楽としてのロックサウンド」というものを分析したいと思います。
どうか気長にお付き合いくださいませ。
さて、前置きはこの辺にしておきましょう。
「フォーク」と「ロック」には、大きく分けて3つの音楽的な違いがあります。
ひとつずつ解説してきましょう。
①「音量」の違い
ひとつめは、ロックの大音量サウンドに、フォークリスナーが慣れていなかったことです。
フォークミュージシャンは、アコースティックギターさえあれば、いつでもどこでも音楽を奏でることができますよね。
それに対して、ロックにおけるエレキギターやエレキベースは、電気増幅を前提として作られています。
つまり楽器本体だけでは、ちゃんとした音が鳴りません。
アンプ(スピーカー)と直接つなげてはじめて音が出力されます。
コンセントをささないと機能しない「家電」みたいなものです。
そして、つないだアンプのボリュームを調整することで、屋外でも響き渡る大きな音量を出力できます。
単純なようですが、この「大音量のサウンド」がロックならではの迫力ある演奏を生み出しています。
ロックバンドのライブにおける、「爆音のシャワー」を浴びるような感覚は、めちゃくちゃ気持ちいいですよね。
ロックミュージックの替えがたい魅力です。
しかし残念ながら、ロックの大音量に慣れていないフォークリスナーにとっては、ロックサウンドは単に「うるさい」「耳障り」な音楽に聴こえてしまうのです。。
②リズムの違い
ロックはバンド演奏なので、メンバーの誰かが軸になってリズムを主導(リズムキープと言います)しなければ、各自のテンポがバラバラになってしまいます。
一方フォーク音楽は、基本的に「独奏(ソロ演奏)」なので、一定のリズムをキープする必要がありません。
例えば、途中で3秒くらい急に演奏をとめるのも、急に倍のテンポで演奏するのも、奏者の自由というわけです。
実はここに、ロックにはない、フォーク最大の魅力があります。
リズムキープの必要性がないことで、奏者の呼吸に合わせた、自由度の高い、ゆらぎのあるリズムを生み出すことができるのです。
↑小節によってテンポを変えたり、歌の盛り上がりに合わせて、ギターのニュアンスを変えているのがわかると思います。
歌い手の心のヒダに触れるような演奏、フォークミュージック最大の魅力の一つです。
最近ネットで話題の高校生シンガーソングライター崎山蒼志くんなんかもこのフォークの魅力を体現しています。
それに対してロックバンドでは、先程述べたように、各プレイヤーのテンポを合わせるため、リズムキープが必要となってきます。
この役割は、基本的にはドラムの「ハイハット」が担うことが多いです。
「チッチッチ」と控えめに、一定のリズムで鳴っているシンバルの音です。
このリズムキープ役がいないとバンドのリズムはめちゃくちゃになってしまいます。
↑「串刺しのUFO」みたいなやつがハイハットです。右足で操作します。
ですが、リズムの自由度が高いフォークを主食とするリスナーからすると、ロックの演奏は、リズムキープによって、機械のように硬直した、面白みのないリズムというマイナスの印象を与えてしまうのです。
しかし一方で、ロックならではのリズムというのがあります。
それは「スネアドラム」の叩きだすリズムです。
一般的な4拍子のロックドラムは「ドッタンドドタン」というリズムですが、「タン」の音(2拍目と4拍目)がスネアの音です。
The White Stripes - 'Seven Nation Army'
↑ホワイト・ストライプスは、ギターボーカルとドラマーのみの変則的な編成のバンド(デュオ)です。
ドラマーは決してテクニカルではないし、むしろ拙い感じがしますが、まるでロックの権化のようなドラムだと個人的には思います。
スネアの動きに注目してみましょう。
最初は「ドッドッドッド」というバスドラムの低音に合わせる形で、スネアは控えめに刻まれていますが、00:37あたりでスネアが2拍目と4拍目に分離し、ロックの基本ビートを叩きはじめます。
そして0:50あたり、ジャック・ホワイトの必殺ギターリフが炸裂するタイミングで、スネアもパワフルな叩き方に切り替わっているのがわかると思います。まさに「ロック!」という感じがしますよね。
ロックでは、このスネアドラムの一打が、バンド全体をぐいぐい牽引していくような感覚(=グルーヴ感)を生みだしているのです。
そういえば昔読んだ本で、ロックとはスネアのリズムであり、ロックとは要するに、勃●した●●であると断言されてました…笑
後半の真偽はさておき、スネアの音は、ロック特有の「ガッツ」のあるグルーヴを生み出すのには欠かせないことは間違いありません。
フォークリスナーはこのロック特有のリズムの「良さがわからなかった」わけです。
③楽器編成の違い
また、ロックとフォークでは、使用される楽器とその数が大きく異なります。
念のため確認すると、フォークは「アコースティックギター」と「ボーカル」をひとりで兼任する、いわゆる弾き語りスタイルが一般的です。
一方ロックは「バンド編成」です。
先ほどのホワイト・ストライプスなんかはかなり特殊なタイプですが、基本的には、ボーカル /エレキギター /エレキベース /ドラムスという組み合わせがメジャーですよね。
そもそもフォークリスナーは、単純にロック楽器に親しんでいなかったせいで、ロックのサウンドを受け入れられなかった、というのはあると思います。
私たちにとって、尺八やシタールの音が、良く言えば「エキゾチック」、悪く言えば「異物感たっぷり」に聴こえるのと同じ感覚です。
しかし、ソロ演奏と複数人のバンド演奏の間には、もっと重要な差異があります。
ロックアンサンブルの魅力
複数の楽器が合わさって音楽を奏でるときに、生まれる重要な要素があります。
Q:ひとりの時には聴こえなくて、人数が増えてくると聴こえてくるもの、な~んだ??
A:答えは、楽器同士の「アンサンブル」です。
「アンサンブル」とは、もともとはクラシック音楽(室内楽)での合奏を指す言葉ですが、ロックやポップスではあまり使われません。
その重要度があまり認知されていないからです。
「メロディーが優れてる」
「緻密なハーモニー」
「ノリのいいリズム」
なんかはよく使われますが、「アンサンブル」について言及されることは少ないように思います。
アンサンブルとは、プレイヤー各人が、好き勝手に気が向くままに演奏するのではなく、互いに触発しつつも調和を生むようなプレイをすることです。
実はロック・ジャズ等バンド音楽では、大なり小なり必ず求められる要素です。
ちなみに、ジャズ畑では「インタープレイ」と呼ばれます。
アンサンブルについては、腰を据えて語ると、それだけで3000字を超えるので、後日あらためて単独記事にします。
↑OGRE YOU ASSHOLEは和製「USインディーロック」バンド。
イントロから、2本のギターと、ベース、ドラムスがそれぞれ独自の動きをしています。
各人が好き勝手に動き回っているようで、非常に調和のとれたコンパクトな演奏になっています。
曲が進むにつれて、それぞれの楽器が裏に回ったり、表に出てきたり、多彩なアンサンブルがギュッとに詰め込まれた一曲です。
雰囲気ぐらいは掴んでいただけたでしょうか?
この「アンサンブル」は、ソロ演奏では決して生まれない音楽的要素です。
フォークなど、ソロ演奏の世界にはない要素で、フォークリスナーはこの「アンサンブル」を楽しむ耳を持っていなかったことが、ロックの良さを理解できなかった最後の要因です。
価値の転換
以上3つの要因により、フォークリスナーである、ディランのファンには残念ながら、ロックの良さはわかりませんでした。
それでは、彼らがロックを楽しむためにはどうすればよかったのでしょうか?
それは、価値を転換することです。
つまり、フォークにとってのマイナス要素こそは、ロックの特徴であり、魅力になっていることを理解しよう、ということです。
・音量が大きくて耳障り
⇒ 大音量の音楽を全身で浴びるような感覚を知る
・(フォークに比べて)リズムが機械的
⇒ ロック特有の「ガッツのある」リズム感覚を掴む
・ロック楽器に親しみがない
⇒ロックアンサンブルの魅力を体感する
以上が、フォークリスナーの、ロックの「正しい聴き方」であり、今回の記事の結論となります。
しかし、これはロックに限った話ではない、ということを覚えておいて下さい。
つまり、あるジャンルでのマイナス要素は、他のジャンルでは「価値あるもの」としてみなされることは往々にしてあるということです。
聴き慣れないジャンルの音楽を聴いて、
「自分にとってはイマイチだなあ・・・」
と少し逃げ腰になってしまったら、
この音楽のどういうところがマイナスに感じたのか
を探り、
そのマイナス要素こそは実はそのジャンルの特徴であり、魅力なんじゃないか?
と一度考えてみることが、そのジャンルの良さを発見する近道です。
そうすることで、あなたの楽しめる音楽の幅はもっと広がっていくのです!
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